戸田オリンピックコース埼玉県艇庫に7時着!
まだ、誰も来てない。1番乗りだ!
まだ人もまばらなコースを眺める。
ゴール方向から赤いロースーの人影現る。
ガッシリした肩幅を左右に揺らし、それとはアンバランスなキュートな笑顔を振りまいて!
山領だ!
勝負の準決勝に向けて、やや緊張気味だが、相変わらず飄々としている。
こんな感じで第92回ボート全日本選手権の準決勝、決勝の二日間がスタートした。
山領のシングルスカル準決勝。
そのレースは稀に見るデッドヒートだった。
オルベアで伴走していて、身体が震える様なレースだった。
スタートは悪くなかったものの、徐々に離され、1500m地点ではトップの青山に6.5秒差。
予選でも青山と当たり、6秒差で2位に甘んじ、敗復に回っている。
この準決勝でもやはりこの差はなんともならないのか…
しかし、ここから山領が執念を見せる。
山領の筋質は無酸素性パワーに優れた速筋type2bでもなければ、有酸素パワーに優れたtype1でもない。
有酸素能力を兼ね備えたスーパー速筋type2aだ!
周りの選手が一番苦しい時こそ、このtype2aがものを言う。
1750m みるみる青山との差が詰まって行く!
伴走する我々デンソースタッフのペダルに思わず力が加わる。
しかし、1.5秒届かず…あと100mゴールが遠ければ・・・
最後は1レーンから大垣共立 今井が僅かに青山を刺し、山領は3位!
決勝、順位決定進出を逃す…
しかし、ゴール後、mimo監督が握手を求めてくる。
Macも快く応じる。
この所レース展開がやや消極的と言われた山領が本気を見せた。
そして、この半年、山領に与えたトレーニング成果を出しきったら、ここまでやれるんだ!ということを山領自身が分かってくれただろう。
そんな、握手だったのかもしれない。
チームの先陣がこういうレースをしてくれると、次に続くクルーに勢いがつく!
そして、山領のそれは後に続くダブルの2人を勢いづけるのに充分な熱いレースだった。
ダブルのメンバーは入部二年目の若手 ポテンシャル入部の落合と日本代表の末廣!
まだボートを漕ぎ始めて一年足らずの落合を入部8年目の日本代表 末廣が引っ張って、予選を突破!
この準決勝に駒を進めてきた。
スタートからフィジカルの強さを見せつける様に一気に飛び出す。
500mで既に2位以下に一艇身以上 3秒引き離す。
頼もしい2人だ!
落合の魅力はその恵まれたフィットネスの強さだけではない。
前向きさ、ひたむきさ、明るさ、そして、日々のトレーニングから全てを出し尽くすメンタルの強さ。
およそアスリートに求められるアイテムをことごとく持っている選手だ。
足らないのはまだ発展途上の未熟なオールテクニックとレース勘!
この落合の不足する部分を今や日本女子ボート界の頂点に立つ末廣がゴールへと引っ張り込む!
ところがここで、思わぬ展開に…
軽い風邪と緊張から来る呼吸器系のトラブルが落合を襲う。
1000m付近から徐々に大垣共立銀行が追い上げる。
1500m地点ではその差は一艇身を割り始める。
さらに大垣が伸びる。
ここで末廣が勝負をかける!
岸まで聞こえる程の末廣の気合い、魂の叫びが聞こえる!
再び、大垣を離す。
この準決勝もまた、壮絶な、まさにレガッタだった。
二人の勝利への執念がデンソーダブルを決勝に導く!
レース後、macと共にクールダウンウォークをしていた末廣はレース展開を熱く語る。
「どんなに苦しくても、あそこで(1750m)でもう一度仕掛けなきゃやられるんです!」
写真から見るレース中の末廣の顔は苦しい勝負処で勝負をむしろ勝負を楽しんでいる様にみえた。
末廣は完全に勝負師になっていた、この2年の厳しい代表選考が末廣を勝負師に育てあげていた。
一夜明けた翌日の決勝の舞台。
この準決勝の勢いがあれば、充分に優勝の可能性はある。
特にここまで見せてきたトップスピードの速さは他のチームを凌駕するに充分なものだ。
前半でエネルギーロスさえなければ、逃げ切れる。
表彰台のてっぺんに立てる予感は充分にあった。
予定通りのロケットスタートを見せたデンソーダブルは500でトップに立つ!
しかし、思ったより離せない。
2位の早稲田とは1、5秒
実は前半の1000までにレーンの不利もあり、幾つかの細かいトラブルが発生、エネルギーをロスしていた。
1000を過ぎた辺りからこのエネルギーロスが徐々に重くのしかかり他の3チームに遅れだす。
4着でゴール…
負けた…敗北感が全身を襲う。
心に鉛色の雲が覆う。
しかし、その直後、敗れたデンソー艇上でバウ末廣がストローク落合にハイタッチを求める。
出し切ったのだ!
彼女達はすべてを出し切ったのだ!
末廣には落合が全部出し切って、自分についてきた事が伝わったのだろう。
その言葉にはならない充実感と二人の一体感が自然とそうさせたのだろう。
この2人を見て、Macの心にあった鉛色の雲の間から陽がさした。
出し切って勝てなかったのなら、もっと多くのものを彼女らに与えよう。
そう誓うのに充分な美しいシーンだった。
結果としては表彰台を逃し、寂しい大会となってしまったかに見えるが、この2日間のデッドヒートは多くの収穫と心の栄養をもたらしてくれた。
全日本により一時的にホームチームに合流した末廣は一夜明けて、再びチームを離れ、日本代表に合流、アジア大会に旅立って行きました。
後輩 落合に大きなプレゼントを残して!
デンソーチームはこの大会で多くのものを得ました、
2010年から2012年の黄金期から、今、谷間にいますが、この期間は次なる黄金期への大きな充電ができたと思います
。